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はじめの言語を思い出す〜キム・ローゼン

今月は、先日のパスワーク国際バーチャル会議でプレゼンターをされていた、シニアヘルパーのキム・ローゼンのご紹介をさせていただきます。PIJの理事であるアリソンに、パスワークを紹介されたお友達でもあるそうです。


キムは、詩、音楽、身体の動きを通したワークを提供されており、音楽家のジャミ・シーバーと共にワークショップの開催もされています。PIJオンラインワークショップでお馴染みのマデリンも、キムの元でワークされていたそうです。


この記事を書いているパスワーカーは、バーチャル会議でのキムの目力とポエジーに悩殺され、ネットサーフィンした所、パスワークの場ではありませんが、彼女のTEDトーク動画を見つけました。

今回は、その内容を要約してシェアさせていただきます。




トークは、オープニングの「詩は、私たちの最初の言語です。」から始まります。


真っ黒な画面に白字で、子供たちの名前と年齢、その言語名が次々と映され、ミックスされた子供たちの声の響きが耳に心地よく流れます。子供たちの声とジャミ・シーバーのチェロがクロスフェースする中、キムは話し始めます。


私たちは言語獲得以前、子宮にいる頃から既に母親の心拍リズム、その韻律と出会っています。子宮は詩的なスペースであり、母親はそれを知っています。だから、赤ちゃんに向かって言語ではない韻律で話しかけるし、赤ちゃんもお母さんに同じように応えます。「こうしたい、あれを欲しい、嫌だ!」などの言語になっていく前段階でのコミュニケーションです。


キムはその赤ちゃん言葉を「リズムと韻の遊び場」と呼びます。それは、音と呼吸が肉体を通り抜ける喜びであり、私たちの感情、繋がりたいというニーズの自然な表現が湧き上がる場だと話します。




私たちの個人的な言葉の歴史は、人類の言語の歴史を要約しています。

180万年前、人類は唄のような音の連なりから、感情的な関係性についてのリズムを伝え、そこから相互的な絆を創りました。勿論、危険を伝えるボディーランゲージなど、直接的な伝達方法もあったでしょうが、「ハートのこと」を伝えるには詩が必要でした。


キムはアイルランドの古い詩を朗読し、その絆、「ハートのこと」を観客たちに感じさせます。


あなたの目を見つめると、

私の喉に満月が上がってくる。

とりまく神秘と繋がりを感じる時、

私は、海上を吹く風

大洋の波

打ち寄せる波の雄叫び

人間の内にそびえる山となる。


「一人一人の子供、人類の進化において、言葉は、自分自身との、また他者との繋がりの自然発生的な表現として生まれた。」というテロップが画面上に出る中、キムは語り続けます。


「この言葉は、自分自身、肉体、感情、他者と繋がりたいというニーズ、そして私たちの中を流れる神秘との繋がりを求めるものです。それは、自分の意志を押し通す手段ではなく、鯨の歌や狼の遠吠えのようなものです。」




小さい頃のキムは、お母さんに読んでもらう詩が大好きだったそうです。

しかし、成長と共に、実際にパワーを持っているのは弁護士である父親であることに気づきます。雄弁で合理的な父親のようになりたかったキムは、六歳にして弁護士のように話していました。そして、それこそ、社会から求められる在り方でもありました。

けれど、恋に落ちた時、その言語は問題になりました。何故なら、感情的になっても、法律用語のような無味乾燥な表現しかできなかったからです。


「これは、言語の根っこが、肉体、感情、地球との繋がりから外れるストーリーです。そして決して、個人的なストーリではありません。私たちの言葉はどれだけ、自身の肉体、そして地球の内にある生命に反映しているでしょう。いつからその表現が禁止されるようになったのでしょう。」


続いて、世界で政治的に禁止された民族的な言語を想う「沼地の言葉」(マーガレット・アットウッド作)が朗読されます。


「一つの言語が他の全てのものを食い尽くした。」という最後の一節を静かに終えてから、「これが、私たちのストーリーのエンディングである必要はない。」とキムは続けます。


キム自身のプロセスの中で、言葉が、マスクや操作ではなく、真の自己への扉となるまでには、多くの時間を要しました。そのプロセスは詩が助けてくれたそうです。


キムが壊滅的な抑うつ状態にあった時、デレク・ウォルコックの詩の朗読が、彼女の絶望を通り抜け、永遠に失われたと思っていた、柔らかく無垢で真実の部分に触れました。その詩が、キムの生命を救ったそうです。(キムの著書に、"Saved by a poem”(詩で救われる) という本があります。)

この体験から、ディフェンスを溶かし、自分自身そして他者との間の一体感を瞬時にもたらす、詩がもつ力にキムは没頭しました。




それから話は、イブ・エンスラーのV-dayによって運営される、ケニアの「女の子のための安全な家」を初めて訪れた時の体験へと続きます。(キムはその後、ここで出会った女の子たちの大学進学をサポートするセイフハウス教育基金(S.H.E.)を設立しています。)


この家には、児童婚や性器切断から逃れた50人程の女の子が常時暮らしています。

彼女らは、とても幼い年齢の内に、属する部族の掟に立ち向かわねばなりませんでした。こっそりと家族やコミュニティーを後にし、何日も裸足で身を隠しつつ道なき道を逃げてきた子供もいる。そんな場所です。


恥ずかしがり屋のキムは、どのように彼女達とコミュニケーションがとれるのか分かりませんでした。勇気を出して、女の子たちに歩み寄った時、1人の少女から「何か歌を知っているか?」と訊かれました。

全く異なる人生体験をしてきたその子たちに響く詩が何なのか分からないまま、キムは心に浮かんだ詩を朗読したそうです。

それは、メアリー・オリバーの「旅」という詩でした。

(以下、素人の翻訳です。悪しからず。)



「旅」メアリー・オリバー


ある日、やらねばならぬことをついに知り、あなたは始めた。

周りの声は、役に立たないアドバイスを叫び続け、家全体が身震いし、古い力が足首を引っ張るのを感じた。


「私の命をどうにかして!」それぞれの声が泣き叫んだ。

しかし、あなたは止まらなかった。


あなたはやらねばならないことを知っていた。

強ばった指で土台そのものをこじ開ける風にもかかわらず。

ひどい哀しみにもかかわらず。


時は既に遅く、荒涼とした夜。

道は石や落ちた木の枝でいっぱいだった。

けれど少しずつ、それらの声を後に残して進むと、星々が雲のシーツの間から燃え出で始めた。

新たな声があらわれ、世界により深く深く分け入るあなたに付き添った。あなたは少しずつそれが自分自身の声であることに気づき、あなたが出来る唯一のこと、あなたが救える唯一の命を救うことを決意した。



詩を朗読し終わる頃には、キムと女の子たちの頬は涙で濡れていて、キムを抱きしめに来る子もいたそうです。

「このメアリー・オリバーって何者?マサイなの?何で分かるの?」と尋ねた女の子もいました。(メアリー・オリバーは白人女性詩人です。)



キムはこのようにトークを終えています。

「言葉は繋がりから生まれる。そして私たちに勇気があれば、言葉は私たちを繋がりへと連れ戻してくれます。

ですから私は、言葉の中に居ようと、皆さんに呼びかけます。あなたの感情、涙、笑い、あなたの「愛している。」「恐いんだ、助けて。」あなたの心臓の鼓動と呼吸のリズム、それらが、あなたの言葉の中にあるがままにしてあげて欲しい。

楽しくてクリエイティブで解放的ってだけではありません。これは、私たちの関係性、コミュニティー、この地球、そして私たちの夢にとって、生死を分かつ問題でもあるんです。」



キムの朗読が聞ける元動画おすすめです!

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